ツイてない日記

朝。金曜日に落とした定期を飯田橋の遺失物センターまで取りに行くところから1日がはじまった時点で、ちょっと危ない日だという予想は立てておくべきだったのかもしれないと、今日を終えかけている今は思う。

そもそもこの定期を落としたときも、落とした翌日の出かける直前に定期がないことに気がついて、どしゃぶりの雨のなか駅と家を往復したり駅員さんに聞いたり交番に行ったりと散々だった。結局落とした定期は交番に届けられていてほっとしたけど、わたしがたずねたときにはすでに交番から遺失物センターに運ばれたあとで、月曜日、つまり今日じゃないと取りにいけない状況だった。あとなんかスマホも落として画面が割れた。(ぜんぶ自分が悪いですが)

遺失物センターが開くのが8時半からで、会社の始業開始が9時45分だから、出勤前に定期を取りに行くのはちょっとしたミッションだった。やや遠回りにはなるが行けるよな、と思っていつもより10分はやく家を出る。それなりに混んでいる電車に揺られて、目的地についたのは9時だった。まあ大丈夫、チャッと定期を受け取れば、そこから会社までは20分もない。余裕だ。

幸いセンターでは順番待ちをしている人はわたし以外いなくて、すぐに窓口に案内された。交番でもらっていた遺失物番号が書かれた紙を渡す。窓口のお兄さんが確認しながらパソコンを操作してくれる。

「あ、24日夜に落とされた定期ですね~」
「そうです~」
「は〜い……。あれ、これ◯◯交番(最初に定期落としてないか聞いた交番)にあるみたいです」

えっ?

「その交番でこの紙もらったんですけど……」
「えっ……ちょっとまってくださいね……はい、いえ、でもやっぱり、そこにあるみたいですね」

えっっ!?

「そう……ですか……」

なんだこれミルクボーイか?????

汗が首筋をつたう。朝でもちょっと歩けば暑い季節になったんだな、と見当違いのことを考えながら、わたしは言った。
「つまり、えっと、ここに定期はないんですかね?」

マスク越しでもわかるほど悲しそうな顔で、お兄さんは「そうなりますね」と答えた。

「そう…なりますよね……」
思わず復唱。ないものはない。しょうがない。
「じゃあ帰りに受け取ります、最寄り駅前の交番なので!」
じゃ!と元気に退散しようとしたら、お兄さんは悲しそうな顔のままこう続けた。
「あ、おそらく交番にあるのは午前中のみだと思います。午後からは◯◯警察署のほうに移動になりますので……」

なんで?????(なんでもらしい)

たぶんわたしもマスク越しでもわかるほど悲しい顔をしていたんだろう。
お兄さんは「一応交番のほう聞いてみますね!」と言ってくれたが、すでにわたしには出社ミッションのタイムリミットが迫っていた。あと5分後の電車に乗らないと遅刻する。

「あ!大丈夫です!わたしもちゃんと確認してなかったかもしれないので…!明日そちらに取りに伺います。ありがとうございました!」

すみません電車の時間が、なんてシンデレラみたいな捨て台詞を残し、やや駆け足でセンターを出た。悲しかったが、とりあえず今は電車に乗らないといけなかった。

 

定期がないので、駅で切符を買う。どこからどこまでがいくらなのか、もうすっかり忘れてしまった。路線図を見ながら目的地を探す。焦る。ギリギリで電車に間に合って、とりあえずもう会社に行ってしまいましょう、と汗を拭いながら思った。とりあえず定期の所在はわかっているのだから。

オフィスにつく。エレベーターに乗ろうとして気がつく。

カードキー、家や!!!!!!!!!!!

これはもう、誰がなんと言おうと完全にわたしが悪い。ただのアホ、間抜け、ポンコツ、持ち物の管理もできないなんて社会人何年目ですか???????????????

この時点で時刻は9時半だった。立ち尽くすゲート前。こういうときに知っている人がぜんぜん通らないことを、わたしは今までの経験上知っている。

(よく映画とかである、めっちゃ大変な仕事をなんとか徹夜でやりとげて、上司に「明日の◯時までにこの荷物(超重要なやつ)を▲▲に届けてね!」と言われた主人公が、徹夜明けの帰りにうっかり友だちに会ってお酒を飲んでしまって、うたた寝したら寝坊ギリギリで起きてなんとか遅刻はせず出社してホッとしたタイミングで電話が鳴って「ねえ……荷物(超重要なやつ)届けてって言ったよね……?」「ハッッッ(顔面蒼白、そして嫌なときに流れるBGMがかかる)」みたいなフラグをきれいに回収しちまったな、と思った)

が、残念ながらわたしはお仕事映画の主人公ではないので、スマホからビル来訪者用ゲストカード申請フォームを開き、自分自身を来訪者としてご招待することにした(この間5秒くらい)。我ながら「やるやないの」と思ったけど、このシステム、入社したときに口頭で聞いていただけで実際にやったことがなかった。ぶっちゃけ自分をご招待なんてやっていいのかも不明(OKでした)。パスワードとかなんちゃらIDとか全然わからない。えーいままよ!と初期パスワードを打ち込んだらいけた。神様。

ゲストカードをかざし、エレベーターに乗り、会社のある階に到着。ここまで長かった……。でも完全勝利!!!とドアを開けようとしたところで、ゲストカードではエレベーターのゲートは突破できてもオフィスのドアの施錠はできないことを知った。(そうだよね他の会社さんも入ってるもんね……)

敗北。上げて落とすタイプの敗北。ボロボロのわたしに、もう打つ手はなかった。時間もHPも、なにもない。最後の力を振り絞って、受付の内線で部署に電話をかけて「ドアを開けてください(カードキー忘れました)」と告げる。完全にわたしの負けです。ダンサー・イン・ザ・ダーク(言い過ぎ)。

遅刻はしなかったもん!と思ったけど、席についたのは9時46分だった。ふつうに負けだよ。完全に負け。なにが「もん」だよ。

どっと疲れたが、あれよあれよと仕事をして1日が過ぎた。あまりに怒涛の始まりだったのにたいして、後半はとくに飛び抜けていいこともわるいこともなかった。むしろ帰り道、電車を降りたら雨が降っていて濡れながら家路に着いたから、総合的にみれば普通にツイていない1日である。なーーんてこった。

いや、わかってる、わかってますよ、ちゃんと確認をしなかったわたしが悪いし、そもそももう少しはやく家を出ろよって感じだし、カードキー忘れるのはほんとうにただのポンコツ。いろんな「もう少し」が重なり合った結果だってことはわかってますよ、ええ、でももう過ぎたことはしょうがないので、しょうがないです(日本語が下手)。

とりあえず、明日無事に定期を取り戻すまで、わたしのミッションは終わらない。ぜんぜんインポッシブルでもないミッションだっていうのに手こずっていて笑ってしまう。

 

こうなったらもう、来年の7月27日は嫌でも最高な日にしてやろうと思う。日記にはいつも、ちいさな決意と願いがこもっているのかもしれない。