遠い星の少年は 『THE FIRST SLAM DUNK』

 

映画『THE FIRST SLAM DUNK』を観て、わりと本気で生きていてよかったと思った。素晴らしい映画だった。心臓がバクバクしてドキドキして、なんでかわからないけれど気づいたらぐちゃぐちゃに泣いていた。誰がなんと言おうと、本当に素晴らしい映画だった。

 


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映画の事前のあらすじは一切なし。

どうやら主人公は花道ではなくリョータらしい――ということだけは(公式が唯一アップしていた予告編などから)知っていたけれど、果たしてまだアニメで描かれていない原作部分をただ映像にするのか、それともまったく新しいエピソードを描くのか、それさえわからないまま、公開日当日を迎えた。ただ、『SLAM DANK』に育てられた人間のひとりとして、この映画を観ない選択肢はなかった。

 


正直、観るのはすこし怖かった。以前のアニメから声優全員入れ替えだとか、制作スタッフは原作への愛がない(意訳です)だとか、そういったネガティブな意見をやたら目にしたから。わかるのだ。作品の人気が高ければ高いほど、メディアミックスへの観客の期待値も大きくなること。そしてその期待値が大きければ大きいほど、思い描いていたものと違ったときの落胆もそうなること。

だけど本当に怖かったのは、まわりの批判がどうとかじゃなく、わたしの中のスラダンが形を変えてしまうことだった。原作者へのリスペクトを忘れた批評は冒涜(とわたしは思っている)なのに、「原作・脚本・監督 井上雄彦」というどの角度から見ても井上先生の『THE FIRST SLAM DUNK』が、もしわたしの中で「これじゃない」になってしまったら。そんな感想を持ってしまったら。一体どうしたらいい?

 


結局、そんな傲慢な不安は杞憂もいいところで、ただ何も考えずに映画を観ればいいだけの話だった。花道も流川も三井もゴリもリョータも、みんな変わらずにボールを追っていた。あの頃のまま、そこにいた。

 

 

 

※ここからは、ただただ思いの丈を書きなぐります。ちょっとかっこつけてまとめようと思って書き始めたけど無理でした。ごめん。めっちゃネタバレもします。未見の方はお気をつけください。※

 

 

冒頭。いきなり知らなかった新事実を目の当たりにして、リョータのことしか考えられなくなる。ちょ、リョーちん、おまえ!!!!!!!!!! おまえってやつは!!!!!!!!(大声)

そんなチビリョーちんへの感傷に浸る間もなく、テンションがぶちあがるしかないOPへ。井上先生の圧倒的画力で湘北ファイブが息をやどしていく。リョーちん、三井、ゴリ、流川、花道、と順に姿を現していく彼らに胸がいっぱいになっているところで、階段を降りて登場する王者・山王。ここでようやく「やはり描かれるのは山王戦」と理解。やはり描かれるのは山王戦!!やべえ! 一度息を整える。

 

SLAM DUNK」の文字が浮かび上がり、それがそのまま体育館の床となって試合が始まる。演出が神。OPからここまで、ナレーションやセリフでの説明は一切なし。登場シーンで「桜木花道/ポジション・PF」みたいな文字ベースでのキャラ紹介もなし。かっっっこよすぎるだろうがよ。最高。

そのまま始まる山王戦。CG作画のアニメ苦手なんだよなとか言ってすみませんでした。1ミリも気にならなかったし、むしろリアリティすごくていつのまにか映画館じゃなくて体育館にいた。熱量があまりにも本物。

細かいルールを観客とかのモブキャラの会話で補完するのはスポーツアニメあるあるだと思うけど、そういったものもまったくなく試合は進行する。ゾーンプレスとかオフェンスチャージングのファールとか、全部「わかってんだろ?」で進んでいくのめちゃくちゃ気持ちいい。臨場感が半端ない。

 

そしてそんな試合の合間に差し込まれるのが、宮城リョータの半生。わたし、リョーちんのことなんにも知らなかったんだ……ということを嫌というほど突きつけられる。もう絶対に敵わない相手との、絶対に叶えられない約束。怖くても平気なふりをするとき、ポッケに突っ込む震える手。生きるために必要だったバスケットボール。ああリョーちん………………(号泣)。あのシーンのここで泣く、とかじゃなくてずっと涙が止まらなくて、自分の涙がただただ邪魔だった。スクリーン滲んじゃうからもう流れるなよ!と思うのに全然ダメで、タオル常備していてよかった。

 


あと、湘北ファイブの絆(なんて安っぽい言葉でまとめたくないんだけどな)にも胸が熱くなる。

スポーツに限らず、なにかを極めるためには、技術はもちろんだけどやる気、根性、熱意も絶対に必要で。でもチームプレーの競技で温度感にズレが生じてしまえば、そのやる気や根性は逆に足枷になってしまう。それを2年間で嫌というほど知ってしまったゴリのもとに集まった仲間が、あのメンバーで本当によかった。ゴリがありがとうと言ったとき、わたしも本当にありがとうと思った。それに対してみんながおめーのためじゃねえんだよというのもめちゃくちゃいい。そうなんだよな、みんな自分のために頑張ってんだよな。同じ熱量で同じ目線でコートに立てる人たちがいること、どれだけ嬉しかったんだろう。自分よりもあきらめない人たちと一緒にプレーができて、どれだけ心強かったんだろう。

ゴリとみっちゃんが拳をぶつけたときの小暮先輩のモノローグが映画ではなかったんだけど、それが良すぎて頭抱えた。大事なことをあえて言わないという、観客を信頼しきった演出。全方位、ありがとうございますマジで。

 


試合が後半に入ってからは、本当にしんどかった。試合の結末を知っていても心臓が痛くなった。そんな中で何度でも蘇る男・三井、おまえってやつは………!!腕、あがんのかよ、そんなヘロッッッヘロでよお………!!!(原作のトビラの「うそをついたのか 腕が上がらないなんて」「うん うそ」っていうところ大好き)

シュートが決まるときのゴールの音が聞きたくて、それだけで何度でも劇場に行く価値あると思った。本当にさ、試合でシュート決められるってすげえことなんだよ。三井結局スリー何本決めてるんだろ、安西先生、スコアが見たいです……。

リョーちんの手のひらの文字の意味は、試合が進めば進むほど、リョーちんを知れば知るほどぐっと深くなる。お願い彩ちゃん、ずっとリョータのそばにいて!!!!!!!(願望)

お母さんの「行け」からの彩ちゃんの「行け!」からの「ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!」のカメラワークが天才すぎて空仰いだ。なんだあれ見たことない。あとあそこで流れる第ゼロ感の疾走感よすぎ〜〜〜〜不確かな夢叶えるのさ!!!(嗚咽)

 


ラスト1分は本当に圧巻。音無し、絵のみで勝負するあの原作がそのまま再現されていて震えた。何度でも言うけどカメラワーク天才なんだよな。あとあの、花道の「左手は添えるだけ」が口パク(無音)なのもほんっっっっっとうによかった。たぶん花道、シュート打つときいつもいつもいつも口にしてたんだろうなって思って、あのシュートが決まること知ってたのに決まれって祈った。からの流川とのハイタッチ。音がワッと戻って、湘北のみんなが集まってきて、ああもう本当に最高でした。あの瞬間を見たかった。見れると思ってなかった。ありがとう、本当にありがとうございました。

 


試合の喧騒がスッと落ち着いて、リョーちゃんと家族のシーン。あんな後日があったんだね。あと、山王の選手が廊下を歩いていく場面。沢北さんの涙をこぼす一瞬前の表情のゆらぎがあんまり美しくて合掌した。17年間、バスケのことだけ考えて生きてきたんだよな……………沢北ァ……………

 


そして本当のラストシーン。まじかよ!!!!!って息止まるかと思った。ぐわっと次の興奮が迫ってきた瞬間に流れ出すエンドロールのトップに「宮城リョータ」の名前があって、とっくにボロボロに泣いていたのにもう一回しっかり泣いた。リョーちん、おまえが主人公だよ。本当に本当にかっこよかった。

 

 

 

映画『THE FIRST SLAM DUNK』を観て、わりと本気で生きていてよかったと思った。素晴らしい映画だった。何度でも言う。誰がなんと言おうと、本当に素晴らしい映画だった。

 

 

 

 

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