『ハイキュー!!』完結に寄せて

ハイキュー!!』が完結した。

8年半の連載の終結。最終話更新の0時より前からTwitterには関連ワードがトレンド入りし、ジャンプアプリは回線が混み合ってなかなか読み込めず、そのどれもが『ハイキュー!!』の人気を物語っていた。ほんとうにたくさんの人がこの作品を愛していたんだな、としみじみ思う。

 

わたしが毎週ジャンプを読むようになったきっかけも『ハイキュー!!』だった(作品の終焉にかこつけて感想を通り越した自分語りをするのはこっ恥ずかしいしあんまり好きじゃないんだけれど、今回だけは見逃してほしい。あまりにも身近にいた作品だったので……)。
高校時代バスケ部のマネージャーをしていたから、スポーツの種類はちがえど『ハイキュー!!』には共感するポイントがたくさんあった。フィクションだけどとにかくリアルで、嘘のない世界。『ハイキュー!!』は、ただのスポ根青春マンガじゃなかった。
読みはじめた当時のわたしは高校3年生(高校3年生!?)で、大地さんや及川さん、黒尾さんと同い年だった。でも、すでに部活は引退していたし、日向、影山といった主人公世代はその時点でもう後輩だったから、若干先輩気分な目線で彼らのことを見ていたと思う。わかるわかる、エアーサロンバスの匂いするよね、なんて思ったりもした。
入部して、練習試合があって、合宿があって、県大会があって。春、夏、秋、冬と季節をうつろいながら確実に成長していく彼らを、わたしたち読者はあっというまに追い越してしまった。

 

それでも、実際に流れる年月のスピードはちがくても、彼らの人生は本物だった。

今でもよく覚えている。烏野が青葉城西に勝った148話、ものすごく嬉しいのと同時にものすごく悔しかった。烏野を応援していたのに、青城に勝ってほしかった。どっちのサーブもアタックも決まってほしかったけど、どっちのレシーブも取ってほしかった。烏野のみんなが勝利を噛み締めているのを見て、青葉城西のみんながギャラリーにお礼を言っているのを見て、涙が出た。

(「何がエースだ」と唇を噛み締めながら泣く岩ちゃんの背中を一緒に叩きたかったし、17巻の番外編を読んで生まれてはじめて自分で二次創作書いちゃったし、バレーにハマった瞬間のツッキーを見て引くほど泣いたし、白鳥沢戦でツッキーと日向を押さえつけるウシワカを逆に押し上げる大地さん、旭さん、田中さんの描写に心震えたし、天童の「さよなら俺の楽園」はハイキューの好きなセリフトップ5には入るし、音駒戦を終えた研磨とクロのシーン何回読み返したかわからないし、北さんのチームメイト思いなところずっと好きだし、書き始めたらきりがないです)

 

スポーツの世界に限らず、圧倒的に母数が多くなるのは勝者よりも敗者だ。頂点に立つ人なんて、一握りのうちのさらに一握り。どんなに好きでも、どんなに勝ちたいと必死になっても、その途中でだらけてしまう瞬間やあきらめてしまう瞬間、くじけてしまう瞬間はある。『ハイキュー!!』は、そんな通り過ぎたら忘れてしまうような時間を丁寧に描いてくれた。思えば、めちゃくちゃ心に残っているシーンは敗者側のことが多いかもしれない。わたし自身、勝者になったことがないというのも大きいかもしれないけれど、『ハイキュー!!』は、どんな立場の人にも優しかった。

 

それでも、最終章に入ったときはわずかながら動揺した。鴎台との試合を終えたら、ずっと丁寧に描かれてきた1年間をすっとばして、いきなり舞台が「数年後」になったから。え? 3年生一コマで卒業しちゃうの? 日向たちが先輩になってからの烏野は? 次こそは勝つと誓ったチームたちの「次」は? どうして日向はリオデジャネイロに!?!?!?

ついさっきまで高校生だった彼らが、いきなり大学生や社会人になってしまった。もはや先輩気分を通り越して親気分になっていた目線がきゅうに迷子になる。ここはどこ? あなたはだれ?? わたしはだれ?????(読者です)
そもそも春高編が終盤に差しかかるとともに、『ハイキュー!!』自体も終わりにむけて進みだしているのは感じていた。おそらく大多数の読者がそうだったと思う。でも、あまりにも想定外の方向に舵が切られたことで、その展開に寂しさとともに不安を覚えてしまった。

だけど、そんなのはすべて杞憂だった。今までしっかりと彼ら自身を見せてくれていた『ハイキュー!!』の土台は、ちょっと早送りしたくらいて揺らぐものじゃなかったのだ。

 

ハイキュー!!』が描いてきたのは、かがやかしい高校時代の青春だけじゃない。ただの懐かしい思い出じゃない。彼らの人生だ。ずっと先を見据えて、彼らが繋いできた歴史だ。「最終章」と銘打って、たしかな終わりを予感させながらもそれを上回る未来を見せてくれた。ありがとう以外の言葉が出ない。

主人公はたしかに、烏野高校の日向翔陽と影山飛雄だったと思う。でも、登場人物全員に物語があった。歴史があった。日々があった。最終話のトビラで、登場したチームの横断幕が下がっているのを見て鼻の奥がツンとしたのは、きっとわたしだけじゃないと思う。そうだよね、そうだったよね。あんなこともあった、こんなこともあった。エンドロールのように、今までの彼らを思い出す。すべて繋がっていた。そして、これからも途切れることはないんだろう。

 

ラスト、10番と9番の番号を背負う日向と影山がまぶしかった。拳をぶつけ合う後ろ姿からその正面は見えなくても、どんな表情をしているのか、『ハイキュー!!』読者はみんな想像できたと思う。こんなにも笑顔と希望があふれる最終回をリアルタイムで見届けることができて、ほんとうによかった。泣いちゃうかもな、と思っていたけど泣かなかった。さみしい気持ちを感じさせないくらいサイコーなラストを見せてもらえたことが、うれしかったから。

 

この作品のおかげで見えた景色がたくさんあった。本編は終わりを迎えたけれど、単行本の発売はこれからだし、10月からはアニメの続きもはじまる。延期になっていた原画展も開催告知がされたし、まだまだ『ハイキュー!!』の世界は終わらない。

(それでもやっぱりどうしてもさみしい、なんて書き始めたら永遠に書き連ねてしまいそうなので、いったんここで区切ることにする)

 

古舘先生、8年半ほんとうにおつかれさまでした。素晴らしい世界を見せてくれてありがとうございました。これからもずっと、大好きな作品です。