推しのプレゼンをした話
社会人になってから、真剣に遊ぶことに一生懸命になった。キャンピングカーでキャンプに行ったり、聖地巡礼のために海外へ行ったり、スタンプラリーを制覇するためにママチャリで50キロ走ってみたり。
これだけだとまるでものすごくアウトドアな人間に見えるかもしれないけれど、実際趣味はインドアを極めている。おかげさまで、この自粛期間もとくにメンタルを崩すことなく映画に漫画に明け暮れていた。
ただ、膨大な「何かを極めたい」という気質がムクムクと湧いてきてしまってしょうがない。インドア趣味のなかで貯めた知識を爆発させたくてしょうがない。どうしたらいいんだろうね、と大学時代からのオタク友だちM(もうこのブログではおなじみかもしれない)とラインをしながらふと思い立ってしまった。
それぞれの推しのプレゼン、やってみたくない……?????
(ちょっとツイッターでも呟いたのち恥ずかしくなりツイ消しをしてしまったのだけど、)わたしは近頃、鬼滅の刃のあるキャラクターにズブズブにハマっている。もちろんMはそのことを知っているし、それこそもううんざりしているだろうなというほどそのキャラクターが好きなことは語りまくっていたのだけれど、どんなところがどんな風に魅力的なのか、具体的に語ったことはなかった(実際口語で話していると「やばい」「かっこいい」「すごい」「やばい」しか言えなくなるタイプのオタクなので……)。
文明の利器が進化しまくってくれたおかげで、通信をつなげばどこでもオンラインで会話ができる。ツールを使えば画面の共有もできる。思い立ったが吉日、3日後にプレゼン大会を決行することになった。
これを機に、推しのどんなところが好きなのかきちんと言語化してみようではないか。とりあえず、公式ツイッターからHPから画像をかき集め、漫画の該当箇所をスキャンし、思いの丈をぶつけるための資料を作成した。
プレゼン当日は土曜日だった。朝の10時から(気合いが入りすぎ)という約束だったけれど、わたしのプレゼン資料が完成したのは当日8時半。パソコンを抱えて1時間と少しだけねむる。オンラインでの約束で本当によかった。
定刻、おはよ〜〜と言いながら顔をあわせる。なんだか妙に照れてしまう。
「実は完成したのほんとついさっきなんだよね…」と打ち明けると、「ネネネほんとに学生時代からギリギリで仕上げてくるの変わんないね…」と悲しそうな顔をされた。心外である。
プレゼンはMからすることになった。なんか緊張する、と言いながら画面の向こうのMが姿勢を正すものだから、思わずわたしも正座をした。
Mの推しは映画作品の主人公だった。「もともと主人公タイプにはあまり魅力を感じないと思っていたのに、気がついたらすごく好きになっていた」という導入から、制作時のエピソード、キャラ設定の裏話、ほかの作品との相違点などなど、「制作側の人ですか?」という情報をふんだんに盛り込まれた内容に、感動とともに少し慄く。(制作時間めちゃくちゃ短かったのに……)「言ってみたいセリフ」や「見逃せないシーン」というMの見解満載のオタクトークもありながら、「展開されているグッズ紹介」、「今後の作品紹介」など、やっぱり「中の人ですよね?」感を匂わせプレゼンは終了した。
好きなものを語っているときの人はほんとうに素敵だと思う。すごくよかったよ……と言いながら、プレゼン資料を作っているときの話も聞いた。いろんな雑誌のインタビュー読み返したよ〜と語る彼女はとにかく楽しそうで、人は推しのためならなんでもできるんだなと思った。
ひとしきり落ち着いたあとで、今度はわたしの番。いざプレゼンしますとなるとたしかに緊張するものだった。しかも完璧なプレゼンを聞いたあとで、無駄にプレッシャーを感じてしまう(ばかなんだと思う)。
わたしの推しは、初登場時の行動や弟への態度でヘイトを集めるなど誤解されやすいタイプだった。背負っている設定もなかなか過酷でしんどいので、話していて思わず泣きそうになってしまう(ていうかそもそも鬼滅自体がしんどいからな…)。その度にMが「がんばって〜!」と言ってくれてとても心づよかった。
途中途中で声を詰まらせながらも、無事プレゼンは終了。達成感がものすごかった。
今回こうしてパワポで資料作成してまでプレゼンをしてみて、好きなものを言語化するのはとても心地よい頭の使い方なんだなと思った。なんていうか、ふだんとは全然違う部分の脳みそを使った気がする。
自粛期間、外にも出られないし観たい映画はどんどん延期するし人にも会えない。創作する気持ちになれない人もいるだろう。そんなときおすすめです、推しのプレゼン。気分も晴れやかになるし、なんていうか、夢中になれるよ。
プレゼン資料、オフィシャルの画像や漫画の切り抜きを大量に使っているのでここに載せることはできないのだけど、なかなかに思いを込めてつくったので見たいという方がもしいらっしゃいましたらお送りするのでお気軽に言ってくださいね……
インスタのストーリー
海外で働いている友だちが日本に強制送還させられるらしい。
「まだまだやりたいことがあったのに」
淡いフィルターのかかった写真に似合わないテキストがせつなかった。高校や大学の友だちにやりなさいと言われてはじめたインスタグラムは、めったに更新しないけれどストーリーの機能は手軽で身近でいいなと思う。24時間で消えてしまうから言えること、あるよね。
この1週間で、ツイッターを見る時間がめっきり減ってしまった。今まで通勤時間や昼休みに見ていたから、その時間がまるっとなくなると必然的に見なくなってしまうものなんだなとすこし驚く。自分でも意識しないうちに変わりつつある環境に馴染んでいっているのだろうか。ただ単に、ずっと誰にも会わないからツイートしたいこともないというのが正しいのかもしれないけれど。
今までと住んでいるところは変わらないのに、無人島にきてしまったような気持ちになる。(どうぶつの森みたいなことを言ってしまったけど、わたしはスイッチすら持っていない。せっかくだし買おうかなと思ったらどこにも売ってないんだね、かなしい)
もくもくと短歌をつくっては、「担架」というフォルダにふりわけている。今を忘れるなよ、という気持ちが透けてみえる歌ばかりできる。覚えていられるんだろうか。夜が朝になっても、今が過去になっても、インスタのストーリーが消えても。忘れずにいられるんだろうか。
カメラロールにいつかの桜
在宅勤務になって早1週間が過ぎて、このままGW明けまで継続することが決まった。非日常が日常になりつつあって、当たり前のようにオンラインで仕事をしている。
そこそこ慣れてはきたけれど、慣れてきたゆえに職場の人たちの足を引っ張りまくっていることをじわじわ感じてはへこんでしまう。
しんど〜〜〜〜!!!!と思ったことをバーーッと箇条書きにしてみたらすこし回復した。
「なぜしんどいのか」を文字化して(2500字あった)、己の弱点把握能力だけはすごいなと思ったら悩んでいるのがばかばかしくなってきたのだ。兎にも角にもわたしという人間はわたししかいないので、この状況を乗り切るべく今はがんばるしかないのであります、まる。(ウジウジしても仕方ないので強制終了です)
昼は、冷凍していたロールキャベツをあたためて食べた。食器を洗っているところでおばあちゃんから大量の野菜が届いて、そういえばそんな連絡をもらっていたと思い出す。在宅勤務が始まってから自炊生活なので、冷蔵庫はちょっと苦しそうだった。切り干し大根やひじきもたくさんあって、ありがとうの電話をかける。会えないけど、その分いつもより家族とのやりとりは増えたんじゃないかと思う。
両親のケーキ屋は、テイクアウトのみで営業をつづけている。いっぺんに店内に入るお客さんはひと組までとお願いしているらしい。幸いにも客足は減っていないようだけれど、時間の問題かもしれない。あと少しでオープンから1年、いろいろ企画を考えていたみたいだったのにな。
父はそのぶん、あたらしいケーキの開発に勤しむつもりだという。へこんでいるところ娘に見せたくないんだろうな、となんとなくわかったからなにも言わなかった。わたしも家族にへこんでいるところは見せられない子どもだった。けっきょく似た者同士なのだ。
届いた野菜たちを冷蔵庫に詰め終えてもまだ時間があったので、yoeちゃんのネプリを印刷しにセブンに行った。3日ぶりの外界。想像以上にあたたかくて、もうジャケットは春物でじゅうぶんなんだと思った。この間までピンクだった桜もすっかり葉桜になっていて驚く。人影はまばらだった。
前職で最後に担当した冊子がセブンにおいてあって、パラパラめくった。見本誌、たぶん届かないんだろうな。まあいいんですけどね。
△去年書いたエッセイ
今週は電車に乗らなかった
名探偵コナンの映画公開の延期が決まった。
正直そうなるだろうと思っていたから、ニュースをみたとき感じたのは「まさか」よりも「やっぱり」だった。
きっと、ものすごくものすごく悩んで迷って、くるしんだ結果の決断なんだと思う。毎年の楽しみだからこそとても残念だったけれど、わたし以上にくやしい思いをしている人たちがいると思うと「決めてくれてありがとうございました」しか言えなかった。
楽しみにしていた予定がどんどんなくなっていく。たった1ヶ月と少し前までは、ぜったいに叶う約束だと思っていたのに。
*****
今日は天気が良かったから、昼ご飯を食べたあとアパートの裏にある公園まで散歩した。ベンチでひとりビールを飲んでいるおじさんがいた。桜がとてもきれいだった。
今年この桜を見た人はどれくらいるんだろう。
去年の今頃は、元号が「令和」に決まって、平成が終わる春、あたらしいことが始まる春でいっぱいだった。まさか1年後、こんなことになるなんて思ってもみなかった。
豆乳でつくったココアがなかなかおいしくできた。めっちゃうま〜〜とひとりごとを言って、在宅のみだった1週間がおわる。これからがはじまりなのか、それともおわりなのか、どっちなのかまだわからない。
ココアまったく見えないね………
終末のような週末 約束は守れないまま君に会えない
春愁
家から一歩も出ない日々を過ごしている。
たぶん今、そんな人ばかりなんだと思う。東京では日に日にコロナ感染者が増え、とうとうオリンピックの延期が決まった。映画館やテーマパーク、複合施設の営業時間は短くなり、飲食店におとずれることさえ悪いことのように思えてくる。よくある映画のよくあるはじまりみたいだ。「このまま家族や友人に会えなくなったらどうしよう」と、そんなことあるはずないと思いながらも心の奥底で考えてしまう。
転職して1週間たらずで、仕事は完全リモートに切り替わった。正直、まだ何がわからないかもわからない状態で、すぐに疑問点を尋ねることができない環境になるのはかなりしんどい。
でも、普段と違う仕事環境で新人を育てなければならない先輩や上司を思うとそんなことも言っていられなかった。逐一チャットを飛ばし、ぽちぽちと作業をすすめる。前職の文句をぐちぐち言ったけれど、散々鍛えられたおかげで臨機応変さだけは身についたようだった。
もともとねむるためだけの場所だった部屋で仕事をしているのは変な感じだった。出かけてばかりだったんだな、とぼんやり気がつく。部屋が散らかるはやさは倍速に、反対に1日の速度はおだやかになった。朝、ゆっくりコーヒーを淹れる時間がある。お昼に魚が焼ける。天気がよければちょっと布団を干してみたり、ベランダでカメラをかまえてみたり。今まで面倒だった自炊もすこしこだわってみたくなる。
選択肢がすくなくなることで気がつくこと、得られることもあるのかもしれない。
まあ、そんなこと言っていられるのも今のうちだけなんだろうけど。
明日は、オンラインで新入社員オリエンテーションがある。全然人と話せていないので、声が出るかがすこし不安。
あーあ、春なのにね。いつになったら季節を思いきり感じられるんだろう。今はまだ、世界の冬眠の続きで、じっと息をひそめている。
もし君がゾンビになってもキスをする 死ぬなら同じ世界がいいし
she
久しぶりに会った友人の左まぶたの上に、うっすらと小指の爪の半分くらいの大きさのアザがあった。どうしたの、と聞いたら「先輩にライターでやられちゃった」と言う。受け取った言葉を脳みそが処理しきれず、すこしの間絶句してしまった。
転職先での歓迎会や予定していた飲み会がなくなったこと、週末の予定が根こそぎ延期になったこと、いつものスーパーで納豆がひとつも買えなかったこと。ふたりの中間地点の駅で待ち合わせて、そんな話をしながら歩いていたからすぐには気がつかなかった。
彼女の会社では、表向きの会合は自粛するようにとの通達はあったものの内輪での飲み会までは規制されていなかったらしい。時期的にどうしても送別会などの飲み会は増える時期だ。
「かわいがってもらってる先輩だったしね、すぐに謝ってはくれたよ」
ふざけてのことだったと言う。でも、それでもすごくすごく悲しくなってしまった。彼女がしずかに笑いながら話すのに比べて、わたしの怒りはどんどん大きくなった。
そうなった経緯やそのあとのことは、詳しくは書かない。でも、その先輩が故意に怪我を負わせたことは明らかだった。
火傷したのはまぶただ。顔に、それも目もと付近に火を近づけるなんて、いくら酔っていたってするものだろうか。その先輩のことをわたしはまったく知らないけれど、ぜったいにゆるせないと思った。もちろん過失があったこともだけれど、それ以上に、彼女が先輩にたいして怒りを見せないところにやるせなさを感じずにはいられなかった。
彼女は、どちらかといえば感情を表に出すタイプの子だった。駅で知らない人にぶつかられれば「いまぶつかりましたよね、謝ってください」と言うし、友達同士でも気になることや納得できないことがあればなあなあにせずに返答を求める。
わたしの代わりに怒ってくれることもしばしばだった。そんな彼女が、「そういう人だったし。周りのほうが怒るからびっくりしちゃう」とどこかあきらめたような顔で笑う。悔しくて悔しくて、悲しかった。
彼女に「しょうがない」という感情を抱かせた。
あきらめさせた。
いままでの先輩と彼女の関係性がどんなものなのかを知らないから完全にわたしの想像になってしまうけれど、彼はきっとじわじわと、ゆっくりと、確実に彼女の「上」に立っていったんだと思う。彼女も気がつかないうちに、「そういう扱いをされても仕方がない」と思わせた。
今回の火傷は誰が見ても先輩に非があったとわかる事柄だけど、それ以外にも彼女自身も気がつかないところで軽んじられたことがあるんじゃないかと思った。
ゆるせなかった。
彼女に火傷を負わせた先輩は、4月から転勤するらしい。
話し終えるまで、彼女はずっと落ち着いていた。ネネネがそんなに怒るところはじめて見たと言って笑っていた。
彼女をもっと悲しい気持ちにさせてしまうと思ったから、その話はもうそれ以上しなかった。でも、日が経ってみてもわたしの怒りは全然おさまっていない。悲しさと悔しさとやるせなさと、うまく言葉にできないモヤモヤした気持ち。
わたしに何ができるわけでもないとわかっているからこそ、この怒りはわすれないでいようと思った。
あなたは大切な人なんだよ。簡単に軽んじられていいはずがないんだよ。
だれになんて言われようと、あなたは大切な人なんだよ。
春のゆひら
13日の金曜日、ほぼ週2で会っている友人が久しぶりにうちに来た。最近はもっぱらわたしが彼女の家に行くばかりだったので、「駅着くころ教えて、迎え行きま〜す」とラインをしたら「マジ?次で〜す」と返されて笑いながら駅まで走った。
起こった出来事がいつも楽しくておもしろいから、ぜんぶ記しておぼえていたいと思うのと同時に、そっと触らずにおきたい気もしてしまう。中途半端で宙ぶらりんのわたしの今について、何にも聞かずにただいつも通りケタケタ笑いあってくれる人が近くにいてくれてうれしかった。
コロナのせいでいっしょに行くはずだった予定がくるくると狂っているけれど、まあ結局どこに行ってもわたしたちは変わらずはちゃめちゃハッピーな時間を過ごせるんだと思う。
ホワイトデーのきょうは寒かった。雪が降っても「雪だ」としか思わなくて、でも何か感じてはいるんですよ風を装いたくて「ゆひら」と言ってみた。ひとりだな、と思うとホッとした。ゆひら、ゆひらよ。