『空白』

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すごいものを観てしまったと思った。

 

正直、もう開始5からしんどかった。しんどくて苦しくて、でもだからこそ映画館で観てよかったと思った。もし家のテレビやパソコンで観ていたら、あまりのしんどさに小休憩を挟んでしまったかもしれない。そうしたらたぶん、観終えた今のこの気持ちは味わえなかったと思う。

 

映画『空白』を観た。

 

そのはじまりは、ある女子中学生の万引き。スーパーでの万引き現場を店長に目撃された彼女は、その逃走中に車に轢かれ命を落としてしまう。娘を失った父親は、なんとかして彼女の無実を証明しようとするが、その追求はやがて暴走し始め――。

 

(以下、ネタバレは含まない感想です)

 

 

 

「真実はいつもひとつ」と工藤新一は言うし、わたしもそうだと思っている。けれど、真実はその人の数だけ存在するものなのだというのもまた正しいと思う。ある事柄があったとき、その見え方は置かれる立場や感情で変わってくるから。それを否定することはできないし、自分の意見が正しいと信じ抜くこともやっぱりできない。たぶん世の中に、ほんとうの勧善懲悪ってものはほとんど存在しないのだ。

 

『空白』は、まさにその揺れ動く心の隙間を丁寧に描いた作品だった。吉田監督、こんなことできるんだ。そして古田新太松坂桃李の存在感の凄まじさ。まわりを固める役者陣にも圧倒された。だれひとり演技に見えなかった。

 

娘の無実を信じたい。ただ真実を知りたい。徐々に見えてくるものを真実だと思いたくない。わからない。わかりたい。もうわかりたくない。

 

感情は一定ではない。石を投げ入れられた湖のように不安が押し寄せてくることもあれば、おそろしいほど穏やかに凪いでいるときもある。そのグラデーションが嫌なほうに濃くなるとき、わたしだったらどうするだろう。

 

終盤からラストにかけて涙が止まらなくて、上映後、トイレの鏡にうつる自分の目が真っ赤で笑いそうになってしまった。(藤原季節がめちゃくちゃよかったよな)

 

忘れたくない作品がまた増えた。こういう映画に出会えるから、生きていてよかったかもしれないと思う。

 

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